01:量子の宇宙のアリス ウィリアム・B・シェインリー他 徳間書店
量子論が何かをまったく知らない人も迎える、真実の入門書
階段を登るのは右足から、体を洗うのは左肩から。——はじめるのにまず、無意識に選んでしまうものがあるのではいだろうか。
『量子の宇宙のアリス』
ウィリアム・B・シェインリー 他
僕が蔵書票がわりの書評ブログを始めたいと思いながらも、今日までしないでいたのは、この『01』というはじまりの番号を振る本を選べずに、一歩を踏み出せなかったからだ。無意識から選ぶには自己の読書体験はあまりに空想上に意識的すぎるし、意識的に選ぶには過去の書棚が広がりを持っている。
そうして、この『量子の宇宙のアリス』が過去一万冊を数える本の記憶の中から選び出されたNo.1となったのである。
これは宇宙論の中でも量子論の入門書であり、アリスモチーフによって、読者に心の間口を広くしてもらおうという目論見の本である。(理解、という点は置いておくとして、『量子論入門』などと堅く題を付けるよりは、手に取りやすくはなっているだろう)
僕がこの本で高く評価しているのは、数ある(それこそ無数の)アリスパロディーの中でもかなり良く、原作アリスの不条理な世界を再現している点だ。
はっきり言って、量子世界とアリスは相性がいい。よって、その手の本も今では見飽きるほど出ている。ただし、この本はアリスの続編と言ってもさほど違和感が無いくらい、読み物として完成されている(それゆえ、量子の不条理さを体感できても、論理的な知識としたい場合には勧められないのだが)。それは、ドジソンがアリスに手紙を認めるシーンから始まる所為かもしれないし、アリスが再び不思議の鏡の門をくぐった先で、『不思議の国のアリス』に負けず劣らずキテレツなキャラクタ達に出会う所為かもしれない。
量子を教える教授には理性を捨てろと言われるし(おそらく”今までの”という意味の)、コペンハーゲン解釈を体得した(させられた!)と思ったらすぐにボームの国で連れ回されるし。量子のヤツはたちまちどこにでも”いないる”状態になってしまうし、二本の橋をいっぺんに渡るハメになる。
科学というのは、誠実な手段を取れば必ず心理に辿り着く一本道。そう漠然と思っている頭の持ち主に対して、まったく破壊的である。
————そして、それが楽しいのである。
何かを知ったとき、世界が新しく見える事。それが、勉強や小説の醍醐味ではないだろうか。
ちなみに、ここまで量子世界の入門書として紹介させて頂いたが、実は、現代宇宙論・カオス(力学)・生物観・芸術・哲学などの分野も章立てて取り入れられている。
——現代科学が開いた新しい世界像を体験する——
との副題が示す通り、全体的な世界観紹介書なのである。
個人的には、一枚の絵に繰り返されるフラクタルな構造に感銘を受けた。自然と人間が感じるものとは、そういう事なのだ。
私的なメモ
中学生の誕生日にこの本を得たが、そのときはただただ量子に翻弄されていた。少し時を経て、量子力学を学んでからもこれを読んだが、かなり文学的に昇華されていることが素晴らしかった。
あいかわらず”理解できたと言う人は本当には理解してない”と言われる分野だが。
「ぼくはクィッフ! あらゆる蓋然性の可能性たることが可能! あるいは〜〜(中略)〜〜可能性の蓋然性たることが可能! はたまた、あらゆる可能性の可能性たることが可能!」
これほど目眩がする高揚があるだろうか。
Amazonで改めて探したところ、新品では手に入らない模様。まさかの絶版なのだろうか?
2017/11/05現在 ¥250 だが、250円の価値はあると信ずる。